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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)26号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点について

しかしながら原審挙示の証拠によれば原判示のような認定もできないことはない。論旨にいう、上告人が材木に全然経験のない青年であるということや上告人が本件材木の引渡を受けるまでこれを監視する方法がないということからは、必ずしも上告人が本件山林を買受けるに当りその数量の存在を前提としたものと認めなければならないものでもないし、また右の売買代金を定めるに際して当事者間に一石当りの単価を基準として交渉がなされたということも、それは単に代金を定める標準とするためにすぎないといえないこともないから、その事実から直ちに本件山林の売買において所定数量の存在を契約の要素としたものということはできない。

要するに原審は、当事者双方山を検分しその山に存在する松材全部として契約したので数量の過不足は全く問題にしない趣旨の契約と認定したのであり、山林などの売買においては、そういう契約も全く無いとは言えないから、原審の認定を以て直ちに実験則に反するものとすることは出来ない。そして原審挙示の証拠によれば原審のしたような認定もできないことはないので、結局論旨は原審の確定した事実の認定を非難するものに過ぎず、上告適法の理由とならない。

上告理由第二点について

一定数量のものを目的とした売買において当事者間に数量の過不足について苦情をいわないという話合があつた場合においても、その過不足には取引の通念上自ら限度があるということは論旨のいうとおりである。しかし本件売買に関し原審が証拠により認定したところは、本件山林は被上告人が松だけでも二万才以上あると告げられて他より買受けたものであり、これを上告人に売渡すに当つては仲介人を介して上告人に対し、自分は老年で一々材木の受渡に立会うことは困難であるから、量の過不足はいわず松材合計一万八千才あるものとして売買したいとの意向を伝え、その後上告人と被上告人とは本件山林を実地に検分し、上告人も被上告人の右意向を諒承してこれを買受けたというのであつて、これによると本件売買における当事者の意思は実地に検分した当該山林に満足してこれを売買することにあつたのであり、その数量が果して何才あるかということは単に価格算定の基準とするの外これを問題にしなかつたものと認められないこともなく、従つて本件売買は一定数量の材木を目的としたものでないといえないこともないから、本件材木の数量が現実には一万八千才の約半分しかなかつたからといつて、これに対し今更とかくの言を弄することはできないとした原判決には、何等証拠の趣旨ひいて契約の趣旨を誤解した違法はなく論旨は理由がない。

上告理由第三点及び追加上告理由第二点について、

しかしながら上告人が原審で主張したところは、単に売買物件が契約数量の半分にも足らぬに拘らずその代金全額を請求するのは信義誠実の原則に反するというのであつて、右の数量の不足について被上告人は故意に黙秘したという事実を主張しているのでないから、原審がこの点につき釈明を求めることなく、またこれにつき審理判断をしなかつたのは当然である。そして物件が契約数量の半分しかなかつたとしても、前段説示の契約の趣旨からいつて、直ちに該契約及びこれに基づく残代金請求を信義誠実に反するものとも言えないことは、原判決の判示するとおりである。(なお前記第一点に対する説示参照)。論旨はすべて採用の限りでない。

上告理由第四点について、

しかしながら原判決の主文にいう松材千才とは本件売買物件の一部である松材千才を指すものであることはその理由により明白であるから、原判決の主文に松材を特定する表示がない事実は未だ原判決を破棄する理由となり得ない。また原判決が上告人に対し松材千才と引換に金二万五千四百円の支払を命じたのは、本件売買において材木の引渡と代金の支払とは同時履行の関係にあり、従つてその一部である松材千才と残代金二万五千四百円とも同時履行の関係にあると認めたがためであること判文上明らかである。従つて、原判決には何等所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

追加上告理由第一点について

原判決は第一審における被上告人本人の供述を採用し、被上告人は本件売買の目的である松材の伐採、搬出費用として金一万八千円を支出したと認定した。しかし右の供述によつては右の費用が果して松材のみに関するものであるかどうかは必ずしもしかと明確とは認め難く、これを論旨指摘の各証拠と綜合すれば寧ろ論旨のいうとおり右費用の中には松材以外の雑木の伐採、搬出費用をも含むと認めるのを妥当とし。原判決はこの点において採証の法則に違反したものと認められる。しかしこの事実は本件に関しては単に間接的のものに止まり、右の違法は未だ原判決の結論に影響を与えるものといい難い。従つて本論旨もまた採用に値しない。

以上のとおり本件上告は理由がないから民訴第四〇一条、第九五条、第八九条を適用し主文のとおり判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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